- サッカーと人生、その両方を知る男
- 小さな体で大人のリーグに飛び込んだ10代
- スーパーで知った「働くこと」の重み
- 遅咲きの開花、AZとミランでの成長」
- そして、夢の舞台・マンチェスター・シティへ
- 心で走り、魂でパスを通す選手に
サッカーと人生、その両方を知る男
「プロになる前に、スーパーでレジを打っていた選手が、今マンチェスター・シティにいる。」
この事実だけで、胸が熱くならないだろうか。
オランダ出身のティジャニ・ラインデルス。
彼は、家族との時間と夢との間で揺れながらも、地に足をつけて進み続けた。
栄光の舞台へと至るまでには、レジ打ちやアマチュアリーグでの試合など、どこにでもあるような日々があった。
だが、その「どこにでもあるような」時間こそが、彼を唯一無二の存在にしたのだ。
小さな体で大人のリーグに飛び込んだ10代
インドネシア代表して活躍する兄と共に
父・マルティンは、FCトゥウェンテの下部組織から地元のCSV’28(大人カテゴリ)へ移籍させる。
彼らはまだ十代半ば。大人のリーグでプレーするには小さすぎた。
「服がぶかぶかだったんです。XSを取り寄せたくらい」
と笑うチームマネージャーのライクセン。
けれど、体の小ささは決して弱点ではなかった。
むしろ、それは彼らの技術とスピードを際立たせた。
「ドリブルは危険? いや、彼らは速すぎて、相手が届かないんです。」
この経験は、後のプロキャリアにおいても「タックルをかわす術」として生き続けた。
スーパーで知った「働くこと」の重み
PECズヴォレのユースに進んだティジャニは、やがてトップチームにも近づいていく。
だが、彼の家族はあえて“寄り道”を勧めた。
「プロに近づいたからこそ、地に足をつけなさい」と。
その結果、彼はアマチュア選手として過ごしながら、地元のAldi(スーパーマーケット)で働くことになる。
「レジを打って、数百ユーロを稼いだ。今でもあの経験が、僕の中にある」とラインデルスは後に語る。
目の前の商品にバーコードを通すように、人生の重みを一つ一つ、自らの手で読み取ってきた。
遅咲きの開花、AZとミランでの成長」
プロ契約後も順風満帆とはいかなかった。
AZへ移籍し、さらなるトレーニングとフィジカル強化。
そこでもレギュラー奪取まで時間がかかった。
RKCワールワイクへのレンタルも経験。
だが、ラインデルスは腐らなかった。
「僕は遅咲き。でも、家族がいたから信じ続けられた」と彼は語る。
ついにAZで頭角を現し、そしてACミランでさらに進化。
2024-25シーズンには15ゴールを記録し、プレミアリーグの門を叩いた。
そして、夢の舞台・マンチェスター・シティへ
グアルディオラの下で、ラインデルスはどんな進化を遂げるのか。
ミラン時代には中盤で攻守のバランスを取りながらも、時に攻撃を決定づける一撃を放つ。そのプレースタイルは、シティにおいても大きな武器になるはずだ。
しかも彼には、「仕事とは何か」「努力の価値」「家族の支え」という、プレーの奥行きを支える“人生のレイヤー”がある。
心で走り、魂でパスを通す選手に
ラインデルスは、ただのテクニシャンではない。
ピッチの上でも、人生においても、バランスを知る男だ。
働くことの意味、支え合う家族の温もり、見上げるだけだった夢を現実に変えたプロセス。
それらすべてが、彼のパスの一つひとつに、読みの深さと温かみを与えている。
そしてこれからは、あの青いユニフォームで、世界最高峰の舞台を駆ける。
彼の中に流れるオランダの美学と、地に足のついたリアリズム。
その融合が、きっとマンチェスター・シティに新たな色を加えるだろう。