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トップ下の進化史──トレクァルティスタから偽9番へ、10番の行方

#Roberto Baggio#KAKA#Francesco Totti#Lionel Messi#トップ下#偽9番
ロベルト・バッジョ
トップ下というポジション

サッカーにおいて、「トップ下」は長らく特別なポジションだった。フォワードと中盤のあいだ、相手陣内の最も危険な場所に潜み、最も自由で、最も創造性を求められる。そこに立つ選手は、チームの攻撃の心臓であり、芸術家であり、魔術師だった。背番号10を背負った者たちの多くは、この場所で観客の記憶に残るプレーを刻んできた。

だが、サッカーは止まらずに進化を続ける。守備の組織化とハイプレスの浸透により、「守備をしないトップ下」は居場所を失い、役割は少しずつ姿を変えていった。トップ下は死んだのか。それとも、別の名前を得て生き延びているのか。

本稿では、トレクァルティスタ、セカンドトップ、偽9番という三つの形を辿りながら、一つのポジションが戦術史のなかでどう変容していったのかを描いていく。

四分の三に潜む芸術家──トレクァルティスタ

トレクァルティスタは、イタリア語で「四分の三」を意味する。ピッチを自陣ゴールから相手ゴールまで縦に四等分したとき、相手側から数えて四分の三の位置、つまり中盤と前線のあいだに立つ選手を指す。守備の負担は軽く、自由に動き回りながら、決定的なスルーパスやラストパス、華麗なテクニックでチャンスを創る。トップ下の原型といえる存在だ。

トレクァルティスタのイメージ

この系譜の頂点に立つのが、ロベルト・バッジョである。フィオレンティーナ、ユヴェントス、ミランと渡り歩いた彼が、相手を一人、また一人とかわしながら描いた軌道は、いまも多くの人の記憶に焼き付いている。ポルトガルのルイ・コスタは、ボールを受けるたびに視線の先で時間を止め、フィオレンティーナでもミランでも、味方に最後の一手を差し出した。そしてブラジルのカカは、ミランで加速しながら敵陣を切り裂き、2007年にバロンドールを手にした。

トレクァルティスタの価値は、数字には現れにくい。誰も予想しないパスを、誰も予想しないタイミングで出せるかどうか。その一手に、試合の流れが委ねられていた。観客もまた、背番号10の選手がボールを持つ瞬間を、固唾を呑んで見つめていた。彼らが顔を上げ、視線の先に味方の姿を捉える。その沈黙の数秒が、スタジアムの空気を支配していたのである。

しかし、アリゴ・サッキ率いるミランが築いたゾーンプレスは、この種の選手に新しい問いを突きつけた。守備に参加しない選手が一人いれば、チーム全体の組織は崩れる。トップ下は、守備を免除された特別席ではなくなっていく。

それでも、純粋なトップ下が完全に姿を消したわけではない。2000年代のアルゼンチンには、「エンガンチェ(つなぎ役)」と呼ばれるこの位置の選手が数多くいた。足元の技術と視野で試合のテンポを作り、周囲を動かす。ボールが彼の足に収まるだけで、チームの空気が落ち着く。守備を免除される代わりに、攻撃では全責任を負う。それが、このポジションが担ってきた約束事だった。

得点に近づいた第二のフォワード──セカンドトップ

守備の要求が高まるなか、トップ下は前線との距離を縮め、「セカンドトップ」という形へと分化した。英語圏では「セカンドストライカー」と呼ばれるこの役割は、トップ下とフォワードの中間に立ち、より得点に近い場所で仕事をする。スコアラーとしての決定力、フォワードとのコンビネーション、そして裏へ抜け出す鋭さ。創造性だけでなく、ゴールへの距離感が重視された。

セカンドトップのイメージ

ユヴェントスのデル・ピエロは、この役割で長く輝いた。インザーギやトレゼゲといった長身のストライカーの背後に立ち、ボールを受けて仕掛け、自らも決める。パウロ・ディバラは、ユヴェントスで同じ位置に立ち、「ラ・ホヤ(宝石)」の異名を取った。ボールを受けた瞬間に前を向き、小さな体で相手の間を滑るように抜けていく。セルヒオ・アグエロもまた、小柄な体で最終ラインに襲いかかる、第二のフォワードの系譜に連なる一人だ。

セカンドトップは、トレクァルティスタの創造性とフォワードの決定力を併せ持つ、現実的な進化形だった。最前線の背後にいる選手が点も取る。この変化は、10番が「演出家」から「得点者」へと軸足を移していく過程でもあった。

この変化の背景には、守備ブロックの高さと密度が増したことがある。相手がゴール前を固めれば、トップ下がボールを持つ時間も空間も狭くなる。そこで、最初から前線に近い位置に立ち、得点とラストパスを同時に狙う選手が重宝された。創造性は消えたのではなく、ゴールとの距離を縮めたのである。

前線に宿るトップ下の魂──偽9番

偽9番は、スペイン語圏で「フォルス・ヌエベ」とも呼ばれる。中央のセンターフォワードの位置に立ちながら、自由に中盤へ降りてボールを受け、相手のセンターバックを引き連れて最終ラインに空白を作る。生まれたスペースへ、味方の選手が侵入する。点を取るためのポジションではなく、点を生み出すためのポジションという逆説的な役割だ。

偽9番のイメージ

この考え方は、実は古くから存在した。1953年、ウェンブリーでイングランドを6-3で下したハンガリー代表では、ナンドール・ヒデクチが同様の動きでイングランドの守備陣を混乱させた。それが現代に最も鮮烈に蘇ったのは、2009年5月、グアルディオラ監督のバルセロナがサンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリードを6-2で下した試合だ。そこで中央に立ったのは、リオネル・メッシだった。

メッシは中盤に降り、相手のセンターバックが付いてくるのか、離れるのかを迷う一瞬に、両ウイングや中盤の選手が一斉に走り込んだ。ローマのトッティも、スパレッティ監督のもと同じ役割を担い、センターフォワードを置かない布陣で相手を困惑させた。リヴァプールのロベルト・フィルミーノは、ユルゲン・クロップのハイプレスの起点として、前線で守備とパスワークを兼ね備えた。

偽9番とは、トップ下の思想が最前線に宿った姿である。ボールに触り、パスを出し、味方を走らせる。かつて10番が担っていた仕事を、9番を背負った選手が引き受けるようになった。

偽9番がいま見る者の心を惹きつけるのは、そこに芸術性が宿るからだ。点を取らないセンターフォワードが、試合の主導権を握る。その逆説が、サッカーの美しさを証明している。

トップ下は死んだのか、そして甦るのか

トップ下の行方
時代主な形態特徴
1990年代以前トレクァルティスタ創造性と自由、ラストパス職人
2000年代セカンドトップゴールも狙うフォワード型のトップ下
2010年代以降偽9番前線から組み立てる「消えるセンターフォワード」

2006年、ビジャレアルのファン・ロマン・リケルメは、チャンピオンズリーグ準決勝のアーセナル戦で、終盤のPKを止められて決勝進出を逃した。純粋なトップ下の最後の灯火、と語られることがある試合だ。組織化された現代の戦術のなかで、守備をしない選手は居場所を失い、役割は分散し、変質していった。

だが、それは消滅ではない。偽9番、セカンドトップ、インサイドハーフ──トップ下の精神は、新たな役割のなかで形を変えながら生き続けてきた。2023-24シーズンのレアル・マドリードでは、ジュード・ベリンガムがトップ下に近い位置から得点を量産し、古いポジションの新しい可能性を示してみせた。守備にも走り、攻撃では最終局面に顔を出す。かつての10番とは異なる、現代版のトップ下の姿がそこにはあった。

戦術は、進化を繰り返す。かつて絶滅しかけたリベロが一部のクラブで形を変えて姿を現したように、トップ下的な存在が再び光を放つ時代は、十分にあり得る。個人技が戦術を超える瞬間。その美しさを信じる限り、トップ下の火は消えない。次にその火を灯すのは、まだ名前の知られていない誰かかもしれない。そのとき観客は、10番という数字に込められた意味を、もう一度思い出すことになる。

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