- 誰にも知られず、誰より走った日々
- 転機:フリートウッド→レスターという賭け
- 覚醒:誰も信じなかった“あの優勝”の立役者
- 愛される“奇行”:ヴァーディらしさにあふれた逸話
- 誇り:イングランド代表と、あえての引退
- 人生において一番大事なこと
誰にも知られず、誰より走った日々
彼は育成年代の“エリート”ではなかった。
ジェイミー・ヴァーディ。名門クラブのアカデミー出身でもなければ、10代でプロ契約を結んだわけでもない。かつて彼がプレーしていたのは、イングランドの7部リーグ。サッカーの合間には、炭鉱用のカーボンパーツを作る工場で朝から夕方まで働いていた。
22歳の時には、足首に電子タグを付けながらプレーしていた。バーでの喧嘩が原因で、ナイトゲームの後には「門限」が課されていたのだ。それでも彼は、毎試合ピッチを縦横無尽に走った。
「俺はエリートじゃない。だから、走るしかなかったんだ」
その走りが、やがて運命を変えていく。
転機:フリートウッド→レスターという賭け
2011年、ノンリーグのフリートウッド・タウンで34ゴールを挙げたヴァーディに、レスター・シティが目をつける。当時、彼の移籍金は100万ポンド(約1.5億円)。下部リーグ出身選手としては異例の金額だった。
「無名の27歳に1億超え?」と笑う声もあった。
だがレスターは賭けた。泥だらけのグラウンドで育った雑草に、プレミアの空気は合わないかもしれない。けれど、それでもかまわない。**一度でもネットを揺らしてくれれば──**そんな願いから始まった挑戦だった。
覚醒:誰も信じなかった“あの優勝”の立役者
2015-16年。誰もが「一時的な好調」と思っていたヴァーディは、11試合連続ゴールというプレミア記録を打ち立てる。
そしてレスター・シティは、5,000倍の優勝オッズを覆し、奇跡のプレミアリーグ制覇を達成する。
「誰も信じなくても、俺たちは勝てると思ってた」
ピッチ上で闘い、走り、叫び続けた彼の姿は、まさにクラブの魂そのものだった。
プレミアの頂点に、靴工場からやってきた男が立っていた。
愛される“奇行”:ヴァーディらしさにあふれた逸話
ヴァーディは、そのプレースタイルと同じくらい“人柄”でも愛された。
試合前にレッドブルをがぶ飲みし、バナナを食べ、再びレッドブルを飲むというルーティンは、ファンの間で伝説的な儀式となった。カフェインで身体を燃え上がらせてから爆発的なダッシュを繰り出すその姿は、まさに“ヴァーディ節”。
さらに、ビッグクラブを挑発するようなゴールパフォーマンスや、気さくで飾らないSNSでの発言も話題を呼び、ファンとの距離を縮め続けた。
どこか「プロっぽくない」からこそ、誰よりも“人間らしい”。
プレミアのピッチに現れた、“下町のヒーロー”。それがジェイミー・ヴァーディだった。
誇り:イングランド代表と、あえての引退
ヴァーディは、代表にも呼ばれた。EURO、W杯にも出場した。
しかし彼は、代表キャリアを自ら引退した。
理由は「若い選手たちの機会を邪魔したくないから」。
自己中心的ではなく、信念と誇りを持ってチームに向き合う姿勢は、サポーターの心を強く打った。
何より彼は、「クラブに人生を賭ける」という道を選んだのだ。
人生において一番大事なこと
ジェイミー・ヴァーディの物語に必要なのは、派手な数字ではない。
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工場で働きながらサッカーを続けた執念
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電子タグをつけながらピッチに立った覚悟
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5,000倍の奇跡を本気で信じて走り続けた意志
チャンスは、誰にでも来ない。けれど、来たときに掴める準備をしていた男がいた。 それが、ジェイミー・ヴァーディという選手だった。
彼の背中が教えてくれる。
夢は、走る者にしか見えない景色を見せてくれる。