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美しくなければ、Footballじゃない

なぜサッカーは世界で最も愛されるのか──労働者から始まった普遍の遊びの歴史

「サッカーは、なぜ世界で最も愛されるのか。」
ふと私は、気になった。

高価な道具も、広大な敷地もいらない。
ボールひとつと、集まった仲間。
それだけで歓声は生まれる。
だからこそ国境も階級も越え、世界の共通語になった――その歴史をたどりたい。

サッカーはなぜ世界で最も人気なのか

 

世界最大級の視聴者を集めるサッカー。その根にあるのは、特権階級の娯楽ではなく労働者の遊びとして育った来歴だ。
工場の汽笛が鳴り止む黄昏、仕事を終えた人々が路地で蹴ったボールが、やがてスタジアムを満たし、世界をひとつに結びつけていく。

19世紀前半(1820〜1840年代)――上流階級スポーツの時代

当時のヨーロッパで「スポーツ」は中流以上の余暇文化だった。

テニスには専用コート、クリケットやゴルフには広大な土地が必要で、参加者はごく限られていた。
庶民の生活は長時間労働が常態で、余暇も乏しい。

社会通念としては「スポーツ=上流の嗜み」が支配していた。

19世紀後半(1850〜1860年代)――労働者がつかんだサッカー

産業革命で都市に工場が立ち並び、労働者階級が増加。

必要だったのは、安価で簡便、集まればすぐ始められる遊び。

そこで選ばれたのが「ボールを蹴る」という最小の行為だった。

地域ごとに異なる遊びが共通の文化へ収斂し、1863年にはイングランドでフットボール・アソシエーション(FA)が設立、ルールが統一される。

この過程で「手を使う派(ラグビー)」と「足のみ派(サッカー)」が分岐し、近代サッカーが誕生した。

1870〜1900年代――鉄道・リーグ・スタジアムの誕生

鉄道網の発達により街と街が結ばれ、遠征試合が一般化。

工場や教会を母体とするクラブが各地に生まれ、週末の試合が労働者の楽しみとして定着する。
1888年、世界初のフットボールリーグ(イングランド)が発足。

継続的な物語が始まり、スタジアムには万単位の観客が詰めかける。
応援歌やチャントが生まれ、サッカーは町の誇りと共同体の象徴へと深化した。

20世紀前半――港町から世界へ、そしてW杯へ

移民や船員がボールを携えて海を渡り、労働者のスポーツは各国の港町で根づいていく。
1894年、チャールズ・ミラーがブラジルにサッカーを紹介。
サンパウロやリオの工業地帯・港湾部で急速に普及し、庶民の情熱が火を噴く。

1930年、ウルグアイで第1回FIFAワールドカップ開催。
サッカーは地球規模で競われる舞台を得て、労働者の遊びは世界的な祭典へと飛躍した。

20世紀後半――サッカー王国の確立とテレビ時代

1958年、スウェーデンW杯でブラジルが初優勝。
ペレの登場はサッカーを「芸術」と呼ばれる域に押し上げ、ブラジルはサッカー王国の象徴となる。

1960〜70年代にはテレビが普及し、スターのプレーが家庭に届く。クラブは都市の旗、代表は国家の顔となり、サッカーはアイデンティティの舞台として機能を拡大した。

21世紀――ビジネス化と、その影

グローバル放映権とスポンサーシップが膨張し、プレミアリーグやチャンピオンズリーグは巨大市場に。
同時に、チケットやユニフォームは高騰し、かつての主役だった労働者が気軽に通える価格帯から遠ざかりつつある。
サッカーは便利で安全になったが、「誰もが同じ場所で肩を並べる」という原風景が薄れる危うさも抱える。

ビジネス化の時代に寄せる嘆き――それでも残る希望

それでも、路地裏のコンクリート、校庭の砂、海辺の濡れた砂利の上では、今日も誰かがボールを蹴っている。
肩書きも財産も関係ない。ただ同じリズムで走り、同じボールを追い、同じ歓声を分け合う。
サッカーは「誰でも・どこでも・誰とでも」を叶える共通言語。起源が労働者の遊びであった事実は、これからの在り方を照らす灯だ。

魂は路地に、光はピッチに

サッカーは、工場の汽笛が鳴り止んだ夕暮れから始まった。
汗の匂い、固い靴、荒い息。

そこにあったのは、勝ち負けよりも生きる手応えだった。
ビジネスの波が押し寄せても、あの手応えが失われない限り、サッカーは世界で最も愛されるスポーツであり続ける。


ボールがひとつあれば、また世界はつながる――それが、このゲームの歴史である。

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