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スーパーマーケットのアルバイトからシティへ。ラインデルスの軌跡

#Reijnders#Manchester City#AC Milan#AZ#Netherlands#秘話
ティジャニ・ラインデルスの写真

棚に商品を並べ、レジの前に座る。バーコードを読み取り、釣り銭を渡し、次の客を迎える。オランダ東部の町ズウォレのスーパーマーケットで、そんな日々を過ごしていた青年がいた。月に稼ぐのは、数百ユーロ。夢の舞台は、遠い景色のままだった。

それから数年後、同じ青年は、イングランドの王者が着る空色のユニフォームに袖を通す。ティジャニ・ラインデルス。ミランの中盤を支え、マンチェスター・シティの扉を開いた男の足跡は、栄光よりも、積み重ねの記録に近い。

どの段階で、何を手放さず、何を受け入れたのか。遅咲きと呼ばれる選手の歩みを、家族の風景とともにたどっていく。

兄弟と、ボールと、ズウォレの街

ラインデルスは1998年7月29日、ズウォレに生まれた。父のマルティンはプロ選手として250試合以上に出場した人物で、家のなかにはいつもボールがあった。名前は、ナイジェリア代表やアヤックスで活躍したティジャニ・ババンギダにちなむ。モルッカ系インドネシア人の母を持つため、インドネシア代表となる資格も備えていた。弟のエリアーノも同じくサッカーの道を歩み、兄弟は同じ町の同じクラブで育っている。

ティジャニ・ラインデルスの写真

少年期のクラブ遍歴は、決して一直線ではなかった。地元のWVFズウォレからPECズウォレへ進み、2011年にはFCトゥウェンテの下部組織へ。2015年には、アマチュアのCSV'28でプレーしている。エリート養成の道筋を、きれいにたどったわけではない。

ティジャニ・ラインデルスの写真

ユース年代で花開く選手は多い。だが、ラインデルスの場合、その時期に与えられた称賛は多くなかった。ボールを扱う技術と、周囲を見渡す視野。魅力は確かにあったが、それを決定的な武器に変えるには、まだ時間が必要だった。

棚を並べ、レジに立つ日々

プロの世界に飛び込む前の約1年間、ラインデルスはスーパーマーケットのアルディで働いていた。2023年にオランダ公共放送NOSの取材へ答えた言葉が、当時の風景を鮮やかに描き出している。

ティジャニ・ラインデルスの写真

「棚に商品を並べて、レジに座って、月に数百ユーロを稼いでいた」

同じ店で働いたのは、親友2人。夢を語り合う仲間と、同じ制服を着て、同じ時間に出勤する。日々の報酬は決して大きくないが、生活のリズムは確かに存在した。

ここで彼は、サッカー選手の日常とは別の世界を見る。商品を補充する腕の重さ。長い列を前にして、次の客へ笑顔を向ける集中力。ボールを蹴る時間よりも、働く時間のほうが長い日々が、そこにはあった。

「あの時間は、僕にとって良いものだった。そうやって、メダルの両面を見ることができたんだ」

それでも彼は、サッカーそのものを手放さなかった。夢と生活を両立させる難しさが、のちの落ち着いたプレーぶりに通じていると、見る人は感じるかもしれない。

夢を追う時間と、現実を生きる時間。二つの層を持つことで、彼のプレーには独特の落ち着きが宿った。足元の技術だけでは説明できない、物事の優先順位を見極める視点である。

遅咲きの階段を、一段ずつ

PECズウォレでトップチームデビューを果たしたのは2017年。ただ、出場はこの1試合にとどまった。同じ年、彼はAZに移る。ここで、サッカー選手としての自分を初めて意識するようになったと、本人は語っている。

最初に待っていたのは、ヨング(セカンドチーム)での日々だった。2部のキーケン・カンピューンディヴィジで約1年半。トップチームへの道は、遠く、険しい。2018年にようやく一軍へ昇格するが、レギュラーの座が約束されたわけではなかった。

2019-20シーズンには、RKCワールワイクへ期限付きで移籍する。「最高レベルでプレーする時間が必要だと感じた」と、のちにNOSの取材で語っている。新型コロナの影響で出場は8試合に限られたが、この経験が彼の背中を押した。

「自分でも、遅咲きだと思う」

RKCから戻ったAZでは、少しずつ出場時間が増えていく。ボールを持つ時間を見極める力、受け手の位置を事前に確認する癖、守備に切り替わった瞬間の最初の一歩。派手さはないが、チームの歯車としての信頼が、試合ごとに高まっていった。NOSは、成功を待つ時間は長く、ときには疑いが顔を出したと本人の言葉を伝えている。そのたびに支えたのは、家族だった。

2022-23シーズン、AZはUEFAヨーロッパ・カンファレンスリーグで準決勝まで勝ち進んだ。中盤で攻守のつなぎ役を務めたのが、24歳になったラインデルスである。かつてスーパーの棚を並べていた青年は、ヨーロッパの夜に名前を知られる存在へと変わっていた。

ミラノの夜、15ゴールの春

2023年7月19日、ラインデルスはACミランへの移籍を発表する。契約は5年。同年9月にはオランダ代表デビューも果たし、3-0で勝利したギリシャ戦に途中出場した。ひとつの扉が開くたびに、もうひとつの扉が見えてくる。

オランダ代表では、2024年3月22日のスコットランド戦で初得点を記録した。4-0の勝利に花を添えたゴールだった。同年夏の欧州選手権でも代表メンバーに選ばれ、ボールを前へ運ぶ役割を担った。かつて町のスーパーで働いていた青年が、国を背負って戦う立場になる。その道のりは、決して華やかな近道ではなかった。

ミランでの初ゴールは、11月11日のレッチェ戦。2-2の引き分けに終わった試合で、彼は新しい街での最初の得点を刻んだ。以降、中盤から前線へ飛び出すタイミングと、ペナルティエリア付近での冷静な判断力が、ミランの攻撃に欠かせない要素となる。

ミランでの通算成績は、104試合で19ゴール。中盤の選手が、これだけの得点を挙げる意味は大きい。守備の局面で相手の動きを読み、攻撃に転じた瞬間に最前線へ駆け上がる。その走りの質は、AZでの128試合、13ゴールの時間をかけて磨かれたものだった。

2024-25シーズンは、公式戦で15ゴール。スーペルコッパ・イタリアーナを制し、セリエAの最優秀ミッドフィールダーにも選ばれた。2025年3月には契約を2030年まで延長しており、クラブがどれほど彼を信頼していたかがうかがえる。

空色のユニフォーム、その先の景色

2025年6月11日、マンチェスター・シティが獲得を発表した。契約は5年。報じられた移籍金は、約4,650万ポンドだった。ミランでの2シーズンを経て、世界最高峰のひとつへ。

ティジャニ・ラインデルスの写真

グアルディオラ監督が率いるチームは、中盤の選手に複数の役割を求める。受け手になり、出し手になり、時にはゴール前へ飛び込む。ミランで培った攻守の切り替えは、その要求に応えるための土台となった。

8月16日、ウルブズとのリーグ開幕戦。彼はシティでのデビュー戦でゴールを決め、チームの4-0の勝利に貢献する。2025-26シーズンは、FAカップとカラバオカップの2冠を経験した。3月22日のカラバオカップ決勝は、アーセナルを2-0で下している。

2026年8月、彼はサウジアラビアのアル・カーディシーヤへ移った。新たな環境で、新しい物語が始まる。

ここまで見てきた足跡は、才能の物語であると同時に、働くことの意味と、支えてくれた人々の物語でもあった。レジの前に立った1年間。メダルの両面を見たという感覚。それらは、パスの一本、ポジショニングの一歩に、静かな深みを与えている。

2026年には、オランダ代表としてワールドカップのメンバーにも名を連ねた。オランダ代表として積み重ねたキャップも、すでに30を超えている。ズウォレの町で、グラウンドとスーパーの往復を繰り返していた青年が、母国の代表として世界の舞台に立つ。人生の曲線は、直線では描けない。

夢は、突然届くものではない。毎日の仕事を丁寧に積み重ねた先で、ふと気がつけば手の届く場所にあるものだ。ラインデルスの歩みは、そんなささやかな真実を教えてくれる。

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